ヨガには、前屈・後屈、ねじり、逆転、バランスなど5つのポーズがありますが、ボルダリングにもヨガのポーズに似た独特な身体動作(ムーブ)が存在します。
正対、ダイアゴナル、フラッキング、ハイステップ、バックステップ、ドロップニー、マントリング・・・。これらボルダリングのムーブはヨガ同様カラダの各部の筋肉が柔軟でないとできません。ボルダリングはさまざまなムーブを繰り出すことにより、ヨガのポーズのように各部の筋肉を柔軟にすることが可能です。
ボルダリングを続けると、股関節や肩関節など、関節の可動域が驚くほど拡がり、カラダが柔らかくなります。カラダが硬くてお困りの方はぜひ一度ボルダリングの基本的なムーブである正対で開脚を経験してみてください。 ボルダリング終了後は股関節のしなやかさをきっと実感できることでしょう。
そして、脊柱起立筋など、ヨガでは鍛えることができない体幹を自重の負荷(重力)をつかって鍛えることもできるので、しなやかなさに加えてカラダの軸がしっかりした強さも獲得できるはずです。
プロのスポーツ選手がシーズンオフにヨガをトレーニングメニューに加えているのは集中力を養うためと言われています。ヨガは筋肉の柔軟性を向上させるだけでなく、「瞑想」というトレーニングを積むことで意識をコントロールし、集中力を高めることができるようになります。
実はボルダリングもヨガと同じくらい集中力を養うことができるのです。
ウォールを半分まで登った時点で次の一手が見つからず、セミのように身動きがとれなくなった時、信じられないような集中力が宿ることがあります。今まで見えてこなかったルートが見えることもありますし、小さいホールドの特徴を瞬時に判断し、神がかり的な体勢を繰り出すこともあります。落ちるかもしれないという恐怖に対峙し、肉体的な限界に直面したとき、私たち人間の奥底に秘められた潜在的な集中力が目を覚ますのです。
ココロの奥底にアプローチするヨガの瞑想が自動的に起動するようなイメージです。
また人間は手は比較的多く使いますが、足は歩くこと以外頻繁に使いません。足でボールペンをつかんで上手に字を書ける人など滅多にいるものではありません。足の神経伝達経路は手ほど発達していないのが現状なのです。あのヨガでさえ、トレーニングを積んでも足への集中はそれほど鍛えることは難しいでしょう。
ボルダリングは足のつま先でホールドに乗ることができなければ上達は難しいスポーツです。手だけでは重い体重を支え、壁を登ることは不可能だからです。ボルダリングを続ければ、足の末端が刺激され、意識が行き渡り、今まで
雑に扱われていた足の集中力が研ぎ澄まされるのです。
ボルダリングには、ヨガの瞑想のようなものはありませんが、危険に遭遇した時の火事場の集中力と、両手両足を刺激することによる驚異の集中力を高めることは可能なのです。
ヨガはカラダをポーズで、ココロを瞑想で調えます。しかしこの段階ではまだ完全な状態とはいえません。最終的には調えたカラダとココロを融合させ、境界をなくさないと真の境地にはたどり着けないのです。
それはヨガだけでなく、他のスポーツも同じです。高い集中力を持ち、肉体を鍛えたとしてもこれらが別個に働いている限り、上達することはできません。
高い運動能力と集中力を備えた人でも本番で力を発揮できのは、カラダとココロが融合できていないことに起因するのです。
ではどうしたらココロとカラダの一体感を創り出す事ができるのでしょうか?
その鍵は「呼吸」です。
人生は呼吸で始まり、呼吸で終わります。(生命の息吹〜息を引き取る)
普段何気なく行っている呼吸は、実は私たちが生きる上でとても大切なものなのです。
このように重要な呼吸を私たちはほとんど理解していません。なぜなら私たちの体を維持する酸素を体内に取り込むには自律神経呼吸という無意識のうちに行っている呼吸で事足りるからです。しかしこの
無意識呼吸だけで生きている限り、次のステップに進むことは難しいといわざるを得ません。
「ピアノの発表会のために死ぬほど練習したのにミスをしてしまった。指が思うように動かなかった。」
「水泳の競技会に向けて大変なトレーニングを積んだのに緊張してしまい結果がでなかった。」
このように本番で力を発揮できないときは必ずといっていいほど呼吸が乱れています。呼吸が乱れると意識が乱れ、ひいては意識の乱れが集中力を低下させていく・・・。呼吸の乱れがココロとカラダを分断し、思い描いた通りの動作を阻害してしまうのです。しかし多くの人は、本番でなぜ失敗したのか自分でもわかっていないことが多いものです。
「まさか呼吸を意識してなかったから?」 肉体と精神さえ鍛えていればうまくいくと信じていた方に
呼吸の重要性を説明すると皆一様に驚かれます。
「深呼吸をしなさい。」本番前に、このようなアドバイスを受けた記憶がある方も多いはずです。このアドバイスは緊張状態を緩和し、乱れた意識を再構築するために効果を発揮します。
ボルダリングは呼吸を意識することが多いスポーツです。
ホールドを掴む動作の前に大きく息を吸い、一瞬呼吸を止めた後、吐きながらホールドを掴みにいく。
他のスポーツよりも動作がシンプルなボルダリングは、呼吸と動作の連動がとても理解しやすいスポーツといえます。そしてこの呼吸を意識して自由自在にコントロールできたとき、カラダとココロが一体化し、無我の境地に到達することができるのです。
ぜひボルダリングで呼吸をコントロールするコツを習得してみてください。きっとその歩みは今後の人生に大きな果実をもたらしてくれることでしょう。
★ボルダリングは調えること
@調身=カラダを調える(ムーブ)※テクニック 各部の筋肉を柔軟にする
A調息=呼吸を調える(呼吸法) ※テクニック 身体と心の両面を呼吸で調える。
B調心=ココロを調える(瞑想法)※テクニック 大宇宙のリズムに心を合わせる。